科学主義と刑事政策 Evidence basedの罠

死刑の是非を語る上で、どうしても外せないのが死刑の抑止力の議論である。今回死刑の抑止力とその実証的研究について語っても良いのだが、じっくりとやりたいテーマでもあるので、それ自身は今後に回すとして今回は科学主義そのものについて少し述べておきたい。

一般抑止効果を測るということ

結論から言おう。死刑の一般抑止効果、つまり刑罰によって一般人に犯罪を思いとどまらせる効果は、科学的、統計学的に証明されていない。
誤解のないように言っておくが、抑止力がないという事も証明されていない。犯罪統計の暗数、統計上発露しない多数の変数の存在など、死刑と犯罪を結びつける統計は非常に難しいのである。

科学主義は総てに優先するか

純粋な科学主義に立った場合、死刑の効果が科学的に証明されていない以上、根拠なく人の命を奪うことは許されない。科学主義=死刑廃止なのである。

当たり前のことだが、刑事政策に限らずあらゆる政策、経営判断も含めて、その全てを科学的証拠に基づいて物事を決めるなんてことは不可能である。とはいえ、人はどうしても物事をシンプルに理解したがる。そういった視点も大切であることは否定しないが、わかりやすい正しさばかりを追い求めては見えてこない本質もあるということを忘れてはならない。