不定期シリーズ 死刑の視点・論点 ①死刑は殺人か?

その通り、殺人である。

…と、ここで終わってしまってはあまりに乱暴なので、もう少し説明を加えよう。刑法学(と身構えるほどのことでもないのだが)に於ける犯罪の要素で言えば、死刑は殺人行為ではある。更に厳密に言うなれば、殺人罪の構成要件には該当する。しかし、刑法第三十五条正当行為「法令又は正当な業務による行為は、罰しない。」という条文により、違法性が阻却され、殺人罪としては不可罰である。
死刑廃止論者の一つの切り口として、ことさらに死刑は「国家による殺人」であると強調するものがあるが、この文脈での殺人とは、あくまで正当行為、正当防衛、緊急非難と同様である。つまり、殺人罪という国家による否定的評価を与えられる行為ではない。

とはいえ、死刑が人の命を奪っていることには変わりはない。だがそれは禁固刑を「国家による拉致監禁」、相撲を「公益法人による暴行行為」と断ずるのと同義であり、学術的に意味のある指摘とは到底言えない。
宗教的、思想的、政治、法哲学的観点からそもそも国家が国民の命を奪うことが許されるかどうかという議論はまた別個の検証が必要であり、この言説とは関係がないことも明記しておく。